医療議連に寄せられたご意見

医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟

医療議連に寄せられたご意見

あえて“医療費抑制政策を続けるべきである”という立場から(医師・Sさん)

私は1997年より、わが国で根拠に基づく医療(EBM)を根付かせるべく活動してきた、正真正銘の現場のたたき上げのプライマリケア医である。

世に今日の医療崩壊の勢いはとどまるところを知らないという。たしかに私の日常診療にもいくばくかの支障がでてきてはいるが、当方の診療している地域(静岡県東部地域)は、もともとが医療過疎地であり、そもそもがこれ以上、崩壊しようがないほど、医療提供体制が不足しているので、いまさら医療改革だの、再建だのといっても、ピンと来ない。医師や看護師がいないならいないなりに、患者さんたちと仲良くやっているというのが現実の姿である。

さて、どこをどう考えても、これ以上、医療費抑制政策を採り続けるのは賢明ではない。昨年のこと、故・山本孝史議員が、ある会議(たしか尾辻議員も来ていた)で“医療費抑制政策を続けるべきか否か”を会場に問うたときに、私が“医療費抑制政策を続けるべきである”という側に挙手したのを、怪訝に思われて、“えっ、斉尾さん、どうして”と、会場で声をあげながら私を不思議そうな目で見た。それから後は、氏とついぞ会うことはなかった。本来は氏の存命中に、“あまのじゃく”な私の考えを開陳すべきだっただろうが、4月12日の公開シンポジウムに臨み、あえて“医療費抑制政策を続けるべきである”という立場からの論陣を張り、以って山本議員の霊前の供えたいと願う。(むろん、本音としては医療費はもっと増えてほしい。)

さて、今、医療現場から見えてくる医療の姿は、一方では“古きよき医師患者関係”であり、民主的医療の“チーム医療”である。もう一方では、やりたい放第でどう考えても無駄なだけで患者にはひとつも益のない“病気屋稼業”(disease-mongering)である。

この“病気屋稼業”というのは、要するにたいした事のない異常を大げさに取り上げて「このまま放っておくと、大変なことになりますよ」と脅して医療に引っ張り込んだり、“人間は見た目がすべて”だの、“ドロドロの血液を治す”だのと一般ウケのする語り口で、医療や医療類似行為を高く売りつけることをいう。

そもそもは“病気屋稼業”というインチキは、民間療法で行われてきたものだが、これが医師たちが食い詰めるようになって、今では正式な医師免許の保持者にも多数、“病気屋稼業”に乗り出すものがでてきた。

たいした病気でもない“病気”で日銭を稼ぐ“病気屋稼業”に精を出す医師が増えてきた(嘆かわしいことに、その少なからぬ部分は医学界の権威側の人間である)以上、これから医療費抑制政策を転換して、医療費の増加に転じた場合、こうした悪貨が良貨を駆逐してしまう。
これは言い換えれば、医療崩壊の元凶となった悪しき医療体制を作り出した当事者たちの延命にしかならないということである。

もう一点、“医療費抑制政策を続けるべきである”という理由を述べる。現在の日本の医療は、標準医療を鑑みず、特殊技術を持つ専門医が珍重されている。こうした医師たちが必要以上に特殊な検査・治療を乱発している現状で、医療費を増額しても、すべては無用な医療行為に充てられるであろう。まずは、標準医療の実施から医療改革に取り組まねばならない。その礎石が私の専門とするEBMなのだが、これもまた、歪んだ形で日本に伝来してしまった輸入学問でしかない。わが国の医療は何を羅針盤にして進めばよいのか、悩みは深い。

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