新潟県の無床の国保診療所にて・・・(医師・Yさん)
新潟県の無床の国保診療所にて地域医療・在宅医療にこの6年ほど携わっている者です。もともとは新潟県出身ではなく6年前にこれからの自分が力になれるのはどの分野であろうかと考えた末、現在の診療所に縁あって職を得ました。医師は自分ひとりですが、近隣六か町村が合併した新設市の辺縁地域ながら、旧村時代に整備された医療・介護・福祉・保健の連携システムが既にあり、また入院をお願いできる地域の病院も市の中心部に存在し、こうした地域内連携に支えられて業務をこなしています。山間僻地の国保診療所を連携の核とした医療・ケアのひとつのモデル地区であろうと自負しております。地域によって実情はさまざまでしょうが、安心な在宅医療の推進のためには、都市部、都会部においても地域内の面での連携、すなわち医療関係職だけではなく介護職、行政職さらには地域住民と渾然一体となった連携体制の構築が鍵になると思います。
さて主題についてですが、まず前提として、医療を受けることになる、あるいは受けずにはいられないような立場に至った方というのは、医療なしでは安心・安全ではないわけです。しかしこの際、医療を受けることによってかえって今までとは違う種類の危険に脅かされることがあり得るということは認識されなければなりません。すなわち「100%の安全・安心」は医療においては残念ながら不可能なのです。であればこそ事前の十分すぎるほどの「インフォームド・コンセント」の必要が叫ばれるわけです。一般的に言って医療であっても、他の生産現場や運輸輸送機関であっても安心安全な体制作りの基本は「十分に人を配置すること」だと思います。事故防止のためのマニュアル作りやフェイルセーフを旨とした設計などはそのあとのことと考えます。技術の進歩につれて配置する人員を削減しうる生産現場等もありましょうが、医療の進歩は逆に医療スタッフの仕事を増やすほうに働きます。しかるに日本の医療現場では医師のみならず、看護師、薬剤師等々医療スタッフが圧倒的に少ないという現実があります。そこを直視せずに「安心・安全な医療体制作り」を議論しても、その結果は画に描いた餅か、医療従事者の安全をかえって損なうものにしかならないでしょう。各種の医療従事者が増えることは当然に経費の増加を伴います。医療費そのものを増加させずにはおかないと言い換えてもいいでしょう。医療の質を一定以上に保つためには、現況のように医療機関への自由なアクセスをなるべく制限しない前提ならば、それなりの医療費増が必要と考えるものです。
国民皆保険制度が成立して47年、当時とは疾病構造も一変し、世界最高水準の長寿国となりました。医療技術も格段の進歩を遂げ不治とされていた病が治癒する時代となっています。一方で医療の分化も進み、国民が医療に期待する技術水準も高くなるばかりです。日本の医療はどうあるべきかという大きな議論なしに、「安心・安全な医療」だけを追求することはできません。総枠での医療費とその分担割合、地域の医療提供体制、医療従事者数やその養成システム、高度な医療や医学の研究体制、医事法制の総合的検討、そして何より国民が望む医療の姿はどのようなものであるか等を十全に考慮したうえで、今一度医療の基本的なデザインを描きなおすことが真に求められていると考えます。現在進められているいわゆる「医療制度改革」は財政からの視点が勝っており、医療現場の実情や、国民の医療への期待要望に対して十分には配慮されていないと強く感じます。開かれた場で医療全般に対して広く国民的論議が起きることを切に望みます。
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