昨今俄かにマスコミ等で騒がれるようになった医療崩壊。(Uさん・医師)
昨今俄かにマスコミ等で騒がれるようになった医療崩壊。その出発点は過去20年以上も遡る。私は1985年に大学を卒業後、内科医として日米の大学病院、自治体病院(県立病院)等で働いてきたが、この間医師の仕事量が増加したため相対的な医師不足が急速に進行してきた。病院という職場は頼りになる、仕事を断らない医師ほど忙しくなるようにできている。要するに使命感のある有能な医師ほどこき使われ、責任を問われ辞めていく。私は組織内部から医師の待遇を改善しないと大変な事態を招くと訴え続けたが、病院の管理者達はそうした現場の切実な声を取り上げることはただの一度もなかった。
医師不足とはどういうことか、現場の言葉で表現すれば次のようになる。病院職員の数の少なさは概ね欧米先進国の数分の一である。私がかつて働いていた米国の大学病院ではベッド数750に対して職員数8500人、帰国して就職した県立病院はベッド数800に対して職員数800余り。この圧倒的な人手不足の状況でリスクマネージメントやインフォームドコンセント等、カタカナ用語で示される欧米並みの患者サービスを行うことが可能であるはずはない。ちなみに医療問題を議論する際、政府はこうした国際比較を徹底して嫌う。もうひとつ医師不足を実感できる比較がある。旅客機のパイロットは事故防止のためフライト時間は月に85時間以内に制限されているそうである。今の病院勤務医は週あたり60~70時間働いているひとがざらである。深夜勤務や休日出勤はあたりまえ、それ以外の時間も携帯電話の出現で365日オンコール状態。精も根も尽き果てるまで働いている。これぞまさに医師の本望というべきか。
こうした医療従事者のまさにプライドをかけた献身的な努力によって、日本では他国よりも低い医療費(対GDP費8%前後)で世界一の長寿を維持してきた。社会がこれに対して与えた報いは一体何だったのか。新聞には毎日のように医療事故の記事がおどり、テレビでは“セレブな医師達”が馬鹿騒ぎ。いつの頃からか「お医者様」という呼びかけも「医者」という呼び捨てに変わり、病院では患者の悪態に医師、看護師ともにじっと耐える毎日。世間の人々が深い眠りにある真夜中、どれだけ多くの患者が勝手な都合で救命救急センターを訪れているかご存知か。マスコミの医療報道は公平、公正か。医療従事者を必要以上に貶めることにどんな社会正義があるというのか。今、こうした問題点について社会に問い直したいと考えている医師は私だけではない。
国民に問う。あなたたちはまじめに税金を払っておきながら他国より安い医療費をまだ抑制し続けようとする政府に不満はないのか。そして最後に政府に問う。他国に例を見ない巨額の公共事業費によりできた財政難を乗り切るため、国民のために身を削って尽くしてきた医師達を冷遇してもよいとする正当な理由はあるか。あるならぜひ教えていただきたい。
|