事情聴取を受けた時考えたことを紹介して事故調3次案の問題について(匿名希望・医師)
私は都市部の民間病院で働く臨床病理医ですが、自分が事情聴取を受けた時考えたことを紹介して事故調3次案の問題について考えを述べます。
症例の詳細は個人情報のため省きますが、入院患者さんが早朝死亡した状態で発見され私が病理解剖を行いました。私は病死と診断し、院内の臨床・病理症例検討会後に臨床経過と解剖結果を主治医と共にご遺族に説明しましたがご理解を得られず、その後警察に告訴されました。私は直接の被疑者ではなく参考人としての事情聴取でしたが、警察に二回呼ばれ各々数時間ずつ聴取を受けました。その間非常なストレスを感じ、また非常な恐怖を感じました。原因はいうまでもなく医師法21条です。告訴自体は最終的には不起訴となりましたが、病理医として病気に基づく異状ではない死亡と判断しても警察が異状と判断した場合には届け出をしなかったということで21条違反に問われるのではないか、という恐れでした。これはもしかしたら私の被害妄想かもしれませんが、今でも病理解剖をするのに躊躇することがあります。病理解剖を行ったときに病理医が異状死と判断しなくても遺族や警察がそう判断すればいつでも医師法21条違反で引っ張ることが可能ではないでしょうか?また臨床医が異状と認識していないが病理解剖で病理医は異状死と判断した場合、病理医はそれを報告する義務が生じます。勿論3次案では届け出は院長の役目ですが、たぶん病理医は全ての病理解剖を院長に報告しその判断を求めることになるでしょう。私が恐れるのは病理解剖をすることで自分の同僚の評価を事故調ひいては警察にゆだねる、卑俗な言葉では同僚を売る、ことに荷担するのではないかということです。病理解剖の目的は医療内容の検討・評価とそれに基づく問題の共有・改善であると思いますが、今の状況では事故調で検討される症例は勿論、全ての病理解剖が変質すると考えます。自分は臨床医と良い関係を保って医療に貢献したいと考えていますが、これが崩れていくと感じるのは杞憂でしょうか?
今回の3次案では21条を改正ないし廃止する代わりに事故調を受け入れることを求めています。事故調設置は21条の代替策ではないと考えます。作成時から何の議論もなく拡大解釈されている21条は廃止するか、その適用に明確な制限を加えるべきと考えますが、今回の案では事故調が単に21条に取って代わるだけです。事故調の記録を裁判に利用することを当然とするのであれば、医師は担当患者が死亡した瞬間に全て被疑者になると言っても過言ではありません。勿論医師といえど国民である以上法の下では平等に扱われるべきです。しかし人間が工業製品と異なり唯一の存在であり、かつそれは最終的には必ず死亡す定めである以上事故調の調査は処罰のためにあるべきではないと考えます。
勿論、家族・遺族を無権利状態に放置するのではなく、救済として無過失保証制度のような形での互助形式が妥当ではないでしょうか?もし遺族が本当に事故の原因の究明と再発予防を求めるのであればこれで対応できると考えます。今は社会全体に応報主義が幅をきかせているようですが、我々がハンムラビ法典の時代から進歩しているのであれば「目には目を」ではない制度を求めるべきです。残念ながら今回の3次案でも応報主義を助長こそすれ、全ての関係者が納得できるものではないと考えます。
本来医師と患者・家族は協同して病気に立ち向かうパートナーであるべきで、そのための徹底した議論が必要であると考えます。
なお、病理専門医の登録数が2000人に満たないという問題はそのことを指摘するだけにとどめます。
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