現在の産科医療には夢や希望がありません。(医師・Mさん)
はじめまして。私は地方で産科開業医を営んでいます。
周産期医療は今、大変注目されておりますが、現場の医師の意見を若干述べさせていただきます。
現在の産科医療には夢や希望がありません。そのことが産科医師が減少している一番の理由でしょう。夢や希望がないとはどういうことか。それはハイリスク・ローリターンだという事です。特に開業というロールモデルが破壊されつつある事が大きいと思います。一方で勤務医の労働条件は劣悪であり、勤務医として定年まで職務を全うする事が難しい科でもあります。開業もダメ、勤務医もダメ、ということであれば、誰も産科を目指さない事は自明です。
産科開業という選択肢がなくなりつつあるのは何故か。まずは経済的な理由です。産科の開業では入院施設・手術施設が不可欠ですし、さらに分娩施設という通常の病院では存在しない施設まで必要とします。産科に特有な医療機械も多く、開業時の設備投資は莫大になり、その回収には相当の期間が必要となります。また、複数の医師で開業できるならばともかく、一人での産科開業は24時間365日診療所に張り付く必要があり、人生と家庭を犠牲にしなければ成立しません。そして、一件でも訴訟を抱え、かつそれが報道(現在では訴訟が提起された段階で報道されてしまいます)されれば、たとえ判決で無責であっても開業にとっては致命的になる事もありえます。そうなると莫大な借金を抱えて路頭に迷う事になりかねません。従って現在では一からの産科開業というのは相当の覚悟がないと出来ないものになっています。
一方、勤務医の労働条件が劣悪な事は、以前小笠原医師がお話しした通りです。そして、ヘタをすると50歳になっても60歳になっても分娩のために当直を繰り返さなければなりません。そうなると若い頃に比べて体力的にきつくなってくることは当然です。また、今の劣悪な労働条件では、家庭をより背負わされがちな女性医師が産科医療を続けられないのは当たり前です。
その上、高次周産期センターに勤務すれば、開業医や助産院からの搬送受入れを強制されかねません。正直に言って、科学的な思考力を明らかに欠いていたり、本来パートナーである病院での医療に対し、妊婦やその家族に必要以上の嫌悪感を持たせるような指導を行っている医師や助産師がいる事も事実です。そのような医療機関からの搬送を強制されるとすれば、そこから逃げ出そうとするのは当然の事と考えます。
以上のように、開業しても病院に勤務しても産科医には明るい未来が描けません。そういう現実に対し、お産の神秘や産科のやりがいをいくら説いた所で無駄でしょう。未来の無い所に人が集まらないのはどの職業においても共通で、特に医療だけに限った事ではないと思います。
であれば、産科医になる事で得られる明るい未来を呈示し、そこへの道筋を明らかにする事が必要です。医学生や研修医たちに産婦人科の医師になる事でこんな素晴らしい未来を手にする事が出来る、そういうヴィジョンを示す必要があります。それは医療の世界の中だけの話ではなく、経済的・社会的な部分にも及ぶものです。
今回の議員連盟には、そういうヴィジョンの作成・呈示をしていく、その原動力となっていただきたいと思います。おおいに期待しています。
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