会議・シンポジウム記録 |
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2008年3月9日 (講演部分のみ抜粋) 海野 信也 スライド1.:それで今日、産科、周産期、新生児の問題が出てきますけど、中心は産科で参りたいと思っております。今起きている問題、色々報道されております、救急医療の問題がまずございます。奈良の未受診妊婦の受け入れ困難、あるいは1昨年になりますけれども奈良の大淀病院のときにクローズアップされました、母体搬送先の決定困難の問題。その背景にNICUの不足がございます。でそれから分娩施設の減少、これは最近急速になっておりますけれども、すでに大分前から進行しているものですが、非常に現場、実際の妊婦さん方を苦しめている状況になっているという問題がございます。 それで、また先生方ご理解いただいていると思いますけれども、なぜかというのはなかなか難しいんですけれども、医療紛争、医療訴訟が一番多いのが、われわれ産科の領域でございます。それで、このような問題の背景には産婦人科医の減少、実際には必要とされているだけの産婦人科医がいない、養成できてないという問題があると思っております。これが今の問題なんですが、このまま行くとどうなるのかということを考えますと、今の段階ではまだたとえば公衆衛生上の指標であります妊産婦死亡だとか周産期死亡といった数字は悪化の傾向は今のところは示してはおりませんが、ただ現場ではそれを危惧する状況になりつつある、ということが起こっております。 でさらに、実際に専門家が分娩取り扱いから撤退する動きというのがこれが分娩施設の減少が背景にあるのですけれどもそれが起きてきております。それで本当に産婦人科医、助産師のなり手がなくなってしまう可能性もあるわけです。もし本当にこのまま行けばの場合ですが。そうすると、結局お産をやる施設はあるかもしれないですけど、そこにちゃんとしたスタッフがいない、それでお産自体が安全でなくなるということが起こってくるでしょう。ですから、今の状況は崩壊しそうだとか、危機だとかって申し上げておりますが、実際には医療提供体制としては産科の領域に関しては地域的には崩壊しているところもたくさんある、という風に考えていただいた方がいいと思います。 スライド2:この状況が進めば、医療自体、他の領域にも同じような問題あると思いますけど、産科の医療自体が水準が落ちて崩壊していく危険性を持っているような状態になっているようなことだと思います。 スライド3:今日お話させていただこうと思ってますのは、色々考えたんですが、一番私が自信を持ってお話できる部分を先にもってきて、それから後、産婦人科医の不足をどういう風に解消していくのかということにつきるのではないかと思いましてそういう流れにしたいと思います。 スライド4:産科救急医療体制の問題というのがクローズアップされるようになりましたのが、1つは福島県立大野病院、これは地方の小病院、公的病院で その地域ではハイリスク症でもやっているような施設ですが、そこに若い医局派遣の1人医長がいた。そこで、実際には医療事故が発生したわけですけれども、彼がそれに関して全部責任負わされているような状態で今刑事裁判が進行しております。ですから、私も教室の主任をやっておりますので同じような状況で若い人を病院に派遣する可能性があるわけです。それでそうした場合こうなってしまっては、それは行ってくれる人はいない。ですから、現実にそういうことが福島県でも起きているのがたしかですし、たとえば、都留市立病院がこんど分娩取りやめになりますが、一番の理由は麻酔科医がいない。麻酔科医がいないので、その手術に関する安全を確保しきれないということで、もうこの大野病院事件のあとでは到底出せないというのが山梨大学の教授の考え方。それは私十分理解できることだと思います。 そのあともう1つ少し別のレベルの問題なんですが、たらいまわし報道というのが1昨年の10月でしたか、奈良の大淀病院事件のときになされましたが、私ども周産期救急をやって三次救急やっている立場でいいますとたくさんの病院があったとしてもどこが受け入れられるのかっていうことを探すというのは本当に現場ではみんな苦労している状況ですから10箇所19箇所とかっていうのはこれは日常的なことです。 神奈川県で30箇所ぐらい普通にあります。それでその中でこの事例に関してはたしかに症例の評価がどうだったかという問題があるんですけれども、19病院聞いて結局国立循環器病センターが受けた、というのは、時間がどのくらいかかったかということを後で話を聞きますと それなりに機能したとわれわれは思ったんです。しかし実際にはこういう形での評価になっているんです。 ですからこの事例は三次救急体制に問題についての議論であります。問題があったと私が考えておりますのは、とにかくもう重症の脳出血症例なんですけれどもそれに きちんと対応するだけのシステムが作られていない、現実に日本中どこにもないという問題が周産期救急医療体制にあったということでございます。ですから、この報道に関しては重症母体への対応の問題があった。そして、このような症例をどうしても奈良県内で受け入れられないときにその先どうするのかというのも全く決まっていなかった。それからあとは大阪の先生たちがボランティアで参加している。そういう緊急のときの広域の母体搬送システム、これらも周産期医療整備対策事業の中では努力することになっていますが、具体的には何も解決策がないという状況でこれもなんとかしなきゃいけないということになります。 スライド5:私どものグループで全国の総合周産期母子医療センターの産科部門のグループで調査をいたしました。母体搬送の受け入れを県内で完結できるかどうか、要するに何箇所連絡したとしても、県内で必ず完結するポリシーでやっているか、それとも困ったら隣の県を探すか、ということです。それで、実際には県内施設で受け入れる、北海道や沖縄はちょっと運べないだろうということもありますので、それはそうなる、地域的な事情もありますが、実際には首都圏近畿圏、北九州圏に関してはやっぱり県内で受け入れきるというのは無理だというのが現実としてございます。それで、でなんですけど、県境を跨ぐ搬送となりますと救急隊の対応の問題ですとか、長距離の場合に行くのはいいですけど、戻ってくるときはどうするのか?というような問題がございまして、その辺の整備が全くなされていないと言うのが、こういう地域ではどうしても必要なことだろうということになるかと思います。 スライド6:その背景はわれわれの立場で言いますと、これは新生児科の先生方も認めているところですけれどもNICUが満床だからです。ようするに妊産婦、周産期の三次救急の場合には、妊婦さんが切迫早産だあるいは重症妊娠中毒症だ、あるいはほかの合併症だということで、妊娠を継続できなくなる可能性が極めて高い。その状況のときに、赤ちゃんが生まれてどうなるのか、それに対応できる施設で受けられるようにするために、周産期センターというものをずっと全国で整備してるわけです。その周産期センターで受け入れられるかどうかということになりますが、実際にはNICUが満床であるという理由でほとんどの症例が別の施設を探してください、ということになります、それが現実です。 スライド7:これは母子保健課が去年やってくださった調査ですけど各都道府県のこれは行政の担当者に、お宅の県はNICUは足りてますかという質問になりますが、それで、足りてるっていうところがブルーで、ホントかって思うところもありますが、赤いところが正直に整備をする、足りてません、とおっしゃっています。もちろんそれはわれわれ産科側の実感から見れば明白なんです。そしてそれが行政側の認識でもあります。 スライド8:同じ調査でNICUの後方病床っていうのがあって、実際にはNICUで管理されるお子さんのうちの数%くらいですけども、やはり後遺症を残されて、でその結果として人工呼吸管理がずっと必要な状態ですとか非常にインテンシブなケアがずっと必要な状態の患者さんのお子さん方というのがどうしても生まれるわけですが、その方、そのお子さんたちをケアをするのがNICUみたいに窓もなくて昼も夜もないようなところでは本当にかわいそうです。それで重症心身障害児施設はそのためにあるんですけど現実にはこれはもうちょっと行政のほうも正直に答えてまして、ぜんぜん足りてません、ようするに整備されてませんということが言われているわけです。 スライド9:それでこれは厚生省の統計ですが平成8年、12年前に周産期医療整備対策事業を企画したとき、全国に周産期医療システムを都道府県ごとに作って総合周産期母子医療センターを整備していくというその事業を企画したときの目標はですね、人口100万当たり21床という数字でございます。で現状が18.5床。それでNICUの病床数は、これは20年ぐらい前ですけども、20年位前に比べてむしろ減少しております。生まれる赤ちゃんはもちろん少しずつ減ってるわけですがNICUに収容される赤ちゃんは増えています。それは低出生体重児が、これも日本で起きてる異常な現象なのですけども、低出生体重児は絶対数として増えている。というのが今の日本で起きてることなので、ですからNICUの病床数の必要数はもうずっと増大傾向であるわけですけど現実にはこういうことになります。 スライド10:そうするとどういうことがおきるかですけど、新生児死亡率と新生児科医の数の関係を総務省が昨年調べたんだそうです。それで過去十年間に新生児死亡率が平均より高いことが多かった県と少ないことが多かった県。私がおりました長野県は毎回平均よりはいいんですがあのここで比較するわけですね。あとその間に平均的な県というものがあります。 スライド11:それで比較しますと新生児死亡率が高めの県ではNICUの専任医師が少ない。これは新生児医療連絡会のほうで調査してくれました。こうやってNICUの専任医師がいるということはNICUがあるということでもありますしそれなりに整備されているということでもあります。ですからそれが整備されることによって新生児死亡率を下げることはできるわけです。それでそれに関しては日本全国どこでもできる。ですからこれは特定の地域とかそういう地域的な事情とは関係なくやろうとおもえばできるというだろうことになると思います。 スライド12:それで今のお話をまとめますと、母体搬送におけるたらいまわしはなぜおきるのか、というとまず妊産婦の受け入れ困難があるからですが、その理由は病的新生児の受け入れが困難である、それぞれの地域でのNICUが発生する患者さんに比べて少ないということです。ですからNICUの病床が未整備であるという点、それから長期入院児が存在していて後方病床が不足しているという問題というこっちの問題もないと、例えばNICUのこの問題を解消しようと思って、NICUをどんどん増やしていこうとしても、それはNICUの中に残る重症のお子さんをずっと抱えることになってあんまりハッピーな話ではないということも確かですし、あんまり経済効率もよくないんだとおもいます。われわれは産科でたらいまわししてるって怒られたんですけども、理由はこっちにあるんですよということを今申し上げておきたいと思います。 スライド13:次に一次救急の問題なんですけども、未受診の方も含めてですが、自分で妊婦さんが救急車を呼ぶっていう件数の調査を昨年、奈良の事件の後ですね、消防庁と厚生労働省の医政局指導課でやってくださいました。それで出生数に対する割合でいいますと、頻度が高いのが北海道、鹿児島と東京、神奈川と大阪、兵庫なんです。おそらく北海道、鹿児島はそれぞれの地域の事情があるのは想像がつくと思うんですが、やっぱりこれは極めて都市的な問題である。 スライド14:それでこのうち救急車を呼んだんだけれども受け入れ先を決めるのに3回以上かかったケースというのがあるのが奈良と東京、神奈川。いろいろ言い訳はあるんですが、例えば東京の消防庁の方に言わせると、東京は搬送紹介システムのネットワークが非常によくできているもんだから、いっぺんに何箇所にも連絡しちゃうので、結果的にこうなってしまうっていう確かにそういうところではあります。ですがいずれにしてもこういうところ、都市部に関しては患者さんが実際に発生してるのも確かですし、それをなかなか受け入れが困難になっているのも確かということになるかと思います。 スライド15:3回以上、しつこいですが、3回以上の紹介を行った妊婦さんの頻度が平均よりも高い県と地域というのがこういう地域です。そういう3回以上紹介する必要の報告例がないところっていうのを見ていくと、そういう妊婦さんが乗った救急車を受け入れられる病院がそんなにないのかなというのが、ブルーのところの実情かもしれません。 スライド16:それでこういう問題を申し上げてきたんですが、都市部で周産期の三次救急の自己完結の難しい問題、これはもうとっさの時の、これはいつ起こるかわからないですけど、ある時東京都全体のNICUが全部満床ということが結構あります。それで神奈川県ダメ、私は今相模原にいるんですけども、東京ダメ、埼玉ダメ、千葉ダメとなって次どうするんだ、ということが、年間10日間くらいあると。ですからそういう場合の広域の搬送システムって言うのは、いつでも必要なわけではありませんが、必要時には動かすことを考えないといけないだろうと思います。NICU病床あるいはNICUの病棟補病床に関しては、バランスの取れた施設整備というのが、これも難しいですけども、それぞれの地域でお考えいただく必要があるかと思います。それで、妊婦さんが救急車に連絡してしまっているっていう問題は困るわけですけど、これは実は産婦人科の夜間診療体制の問題なんです。時間外の診療体制がほとんど作られてないのです。救急システムは。これはこないだ札幌市の産婦人科医会と札幌市の間の喧嘩が救急医療システムに関してですね、報道されておりましたけれども、札幌市産婦人科医会は24時間体制の救急医療システムをちゃんとやりたいので市も対応してくださいと申し上げたんですけど、市がお金が無駄だからいやだといったというのだと、私は聞いております。それで都市部でも一次救急の困難が生じているわけですけども、これも先ほどの札幌市が対応しようとしてるような輪番制をちゃんと作るということをそれぞれの地域でやっていただければ、かなり問題が解決していく可能性はあるものだと思っています。ただ、こういうものはとにかく現場で努力すればできることだ、行政と協力すればできることなんですが、問題は医師不足によって全体としての体力の低下が起きている。これは特に二次施設・二次病院のそれぞれの基幹病院ですね、基幹病院において産婦人科医の数がどんどん減っているという現状がございます。これによってできるのかという問題はあるわけです。それを、現場の医師をとにかく辞めないで、むしろ増やしていかないといけないそのためになにができるかということになるかと思います。それであと後ほどお話しますが、女性医師が産婦人科もうものすごく増えています。この先生方がとにかく働き続けていただく環境を整備する必要があるということになります。 スライド17:次に分娩取り扱い施設のことになります。 スライド19:それで分娩施設ですが、このグラフ私ですね、自分で作ったんですが、このデータ自身は厚生省の医療施設調査です。このグラフ作って表に出しましたら、厚生省からお前どうやって作ったんだと言われまして、厚生省のデータなんですけどって言ってもこれはあんまり現場ではご存知ありませんでした。ようするに、医療施設調査ってすごく厚い報告書なんですけど、そこに2行だけ書いてありますから、それを何年分か集めるとできるというわけです。それで12年間に1200箇所分娩施設は減っております。それは今の医療危機ですとか臨床研修制度とか、そういうのとは関係ありません。この過去十数年間ずうっとこういう状況にあったということになります。それで、これは最初に申し上げました、我々がもっと認識して危機感を、こういう状況ですよということを報告しておかなきゃいけなかったなと思っている一番のことなんですが、出生数はこういう形で同じ比率で書いてありますが、こう推移していて、このギャップの分だけは分娩施設へのアクセスが実際にお産される方々にとって悪くなっているということになるかと思います。 スライド20:2006年に大野病院事件がありましてそれもひとつのきっかけとなりました。2006年から去年の暮れにかけて111施設、これは私ネットで調べられただけなんでもっとあるかと思いますけども、病院施設だけでこれくらいの分娩取り扱いをやめられた病院があります。 スライド23:それでその分娩施設の中身ですね、実際にお産はどこで行われているのか、ということのトレンドですが、この90年からの15年間の変化ですが、病院での出生は20%減少しています。で、診療所での出生は4%の減少、助産所での出生は15%の減少ということで、まあ、あの、要するにですね、この起きている事は、病院が、こう体力がなくなって、お産を止めざるを得ない状況になっていて、その分診療所は、まぁそこの地元でやっている、地域で生きてらっしゃる先生方ですからそう簡単にやめません。なのでそちらの方でなんとか埋め合わせていく状況である。ですからこの15年間でも診療所での出生割合が増えている、病院の方が減っている分だけ診療所の方が増えているという事になります。これは日本特有の現象です。地域に開業の医者がいて、で、それぞれの地域で分娩を扱っているのは、医者の立場から言うと24時間体制で、本当に大変なんですね。ですけれどもそれをやることによって日本なりの安全安心のお産の医療をやっている、というのがこの1970年代から今までやってきていることです。これは外国では聞いたことがありません。例えばオランダやニュージーランドは助産師さんが自宅分娩を、リスクの低い「正常」なお産についてはしているんですが、医者はやってません。日本では周産期統計は非常に数字はいいんですが、そのひとつの理由はこういう形でそれぞれの地域で医者がお産をやって、小規模な施設で分散処理するんですね。グローバルスタンダードはどちらかというと、大きな病院で集中的に集約化した施設で処理している、分娩を取り扱うということですね。それでそのなかで院内助産を集中的にするというやり方をしているのがスウェーデンのやり方です。ですからやり方は国によって自由といえば自由なんですが、日本はこういうやり方でここまできていて、それはなぜできたのかというと難しいんですが、たぶんお産を自由診療にした50年前の決定からこのお産のやり方の日本なりの文化が育っていったのかなという風に考えています。 スライド24:でこれは今言ったことですが、1施設あたりの分娩数出生数としては、病院では400くらい、診療所では300くらい、助産所では30くらいというのが今の状態です。 スライド25:その小規模分散の話ですけど、実際に2005年に産婦人科学会でやった調査なんですけど、いまこの1人2人の病院が減っていると思いますが、この時点では分娩取り扱い施設の70%は1人か2人、開業医も含めて、という状況でした。これですから病院も4割は1人か2人ですし、3人も含めちゃうと、お産やってるところのというか、病院の産婦人科っていうのがせいぜい3人くらいの医者の数だという事になります。その平均もそのくらいの数字になってます。それでまぁまとめれば、分娩施設の84%では産婦人科医は3名以下、で3名で24時間体制を組んでいるということになります。無理なんですが、だから実際産婦人科はきついという話になります。 スライド26:わが国の分娩施設の実態に関するまとめです。 スライド27:でなぜ分娩施設が減少していくってことになるのか考えてみますと、1つは開業医さんが高齢化している、それはなぜかっていうと、先ほどのトレンドでですね、1970年代に開業医の分娩が急激に増えました。そのときに開業しているわけですね。それで30数年たって、その先生たちが80近くになってよれよれになってまだやっているんですが、もうちょっといい加減にやめようということでやめているという部分があります。それから後は、いろんなリスクが高まっている、それで大野病院事件、堀病院事件の影響は極めて大きいわけですね。それから後病院に関してはとにかく勤務条件が厳しいという悪名高い状態になっていまして、若い先生たちがどうしても産婦人科を選ばない傾向が出てきています。それと後は女性医師が多くなっているわけですけど、それで産休育休をとる、これは当然の権利ですけど、ただとったあと代替要員を派遣する余力の残っているところはどこにもないんで、それをきっかけとして分娩を撤退せざるを得ないというような事が現実に起きております。 スライド28:じゃあこれどうするかっていいますとですね、夢を述べさせていただければ、分娩取り扱いリスクをあらゆる意味で軽減して、それからハイリスクであるとしてもリターンを増やす。それから後は、これもいま病床規制とかかかっていて具合悪いんですが、新規開業を誘導すれば地域のお産は守りやすいんです。ですから今の制度だとそれが一番手っ取りばやいような気がするんですが、現実にはとにかくハイリスクローリターンなわけですからなかなか難しい。それから後は病院に関しては分娩施設の大規模化がどうしても必要であろうと。それによって集約化を行ったことによって勤務状況の緩和を、少なくとも当直回数は減らす。あとは何とか基幹病院をもう少しまともな労働条件にしないと、どんどんみんな開業医や民間施設に逃げていってる現状があります。それをどっかの部長がやってるとかぜんぜんうれしくないんです。部長を辞めてフリーターになった先生が私の先輩にいまして、ちょっと困ってまして、これが現実です。 スライド29: スライド31:その中で産婦人科はこのくらいの数なんですが、医師当たりの数にしますとぜんぜん多いんですよ。 スライド32:形成外科は医師の絶対数が少ないんでこれも大変なんでしょうけど、産婦人科、外科、このへんが現場では非常につらいなぁと思っています。もちろん医療に問題があるかないかは別として、そういう現場になってしまっているということでございます。 スライド34:これは1例ですが、私どもの病院で前置胎盤の症例が2006年に倍になりました。2007年も同じ数字になってますけど、他の大学病院に聞くとですね、東大病院でも自治医大病院でもまったく同じ傾向であると。つまり大学病院は逃げられないんで、紹介されてくれば受けます。逃げてうちに紹介してきた他の大学病院もありましたけど、という状況ですね。 スライド40:これは同じことですけど、出生数はこのくらいの感じで減っているんですね。でそれで産婦人科医の減少はこういう形で連動して下がっていまして、明らかに現場ではどんどん忙しくなっているということになります。 スライド42:このグラフが最近作ったグラフの中でもっともショックだったんですけど、産婦人科医は30年前には、これは新設医大ができ始める前、医学部の卒業生が年間3000人だった時代ですね、その頃は10%以上が産婦人科医でした。医者全体のですね。それが今はもう4%を切っています。もちろん出生も減っていますが、産婦人科という診療科がこれでいいんでしょうかっていう問題なんです。要するに医者全体の中で産婦人科っていう診療科は何%いるべきなのかっていうことを考えないといけない状況になっています。このまま行ったらどうなるかっていうことでありますから、それを考えないといけない。産婦人科内部のいろいろな人の意見をきいてみました。みんなの相場でいうと6%はいるだろうと、これはひとつの理由があります。それは、毎年180名減っているわけです。産婦人科の専門医は毎年私どもが300人ずつ養成しています。で新規専攻医も今でも何とか300人はいます。ですから300人入ってるんですけど180人減っている。ですからとりあえず500人入ってくれれば減らなくなるだろうと。それが500人、8000人の新規医師国家試験合格者の6%という数字です。 スライド43:産婦人科医の今どこでどう働いているかという事のデータですが、青が病院です。で茶色の大学病院があって黄色が診療所でございます。60歳のところまででいいますと、これはですから通常の働き方として年齢とともに大学病院勤務者が減少して診療所勤務医が増えてくるというのはどの診療科でもあることです。産婦人科も開業医さんの力が強いですからこういう形になります。注意していただきたいのは、60歳以上の開業医さんがたくさんおられるという点です。これが先ほど申し上げました70年代の後期、第二次ベビーブームの頃にたくさん開業された頃の先生方ががんばっておられるその姿です。この先生方がやめちゃうと数としては激減する形になります。 スライド44:60歳未満でいいますと、毎年新しい先生が入ってきて、で60歳以上になっていくという形になりますから、全体として数は減らなくてもいいくらいなわけなんですけど、この7、8000人の中で病院の勤務医はどんどん減ってます。これは定年になる前に病院をやめて開業する人の率が高まってるという事、従って病院の力はどんどん落ちているということです。 スライド45:これが産婦人科学会員の年齢別、男女別の現状です。横軸が年齢で赤が女性、青が男性なんですけど、2年前に私が作ったとき、本当にショックでした。要するに男性医師がどんどん減っていって、女性医師にまあ、代わりに入ってきてくれてるんですけども、 スライド46,47:これでこのままいくとどうなるか、実際2年経ちまして、1年、2年と、こういう風に変わってきています。 スライド48:女性医師の率は、30代で概ね50%、20代で今70%、でこれ以上上がるかというのはわかんないんですけど、これぐらいでなんとか収まるんではないか、6、70%のところでなんとか収まるんじゃないかな、という感触は持っているんですが、この男女比の変化が現場を変えているんです。先ほど申し上げましたように、病院で働いている先生たちっていうのは、特にこの30代、40代、この部分が病院や救急医療の現場を支えているわけです。その先生方の構成がこう変わってきているという風にご理解いただきたい。ですから、産婦人科の病院で医療をどうやっていくかという問題と、女性医師が働き続けられるかという問題は、ほとんど同じことを言っていることになります。 スライド50:これは直近の産婦人科学会の入会者です。これが、臨床研修制度で3年目から入るようになっているんですが、臨床研修制度になってから概ね10%減少している。それで、女性医師の入会よりも男性医師の減少のほうが更に大きい、わが国はそのような状況でありまして、少なくとも今お示ししたようなトレンドというのは、臨床研修制度になっても変わってはいないということがいえます。 スライド51:女性医師だからどうだ、ということじゃないんですが、これは学会の女性医師の継続的就労委員会というものを組織しておりまして、そちらの方で卒後15年間、研修開始して15年後ぐらいに、どこで働いているのか、ということを調査しました。そうしますと、分娩取り扱い施設に勤務している割合っていうのは男性の場合には15年経ったところでも概ね8割ですが、女性の場合は5割に低下しています。これは、分娩の現場から女性が離れざるをえないような職場環境であるという風に考えていただきたいと思います。それで、これは大変だなあと思いまして、これは要するに15年前に入局した人たちがどうなっているのかということです。 スライド52:専門医になった人、つまり去年専門医になった人、まあ2/3は女性なわけなんですけれども、男性も女性も含めて、「今どこで働いていますか」という質問をしますと、すいません読みにくいかもしれませんけれども、大学病院から、分娩を取り扱う病院で常勤で働いている先生っていうのが圧倒的に多いですよね。これは、白が男性で青が女性なんですけれども、こういう形です。 スライド53:それで、「君たちは5年後にはどこで働いていたいですか」という質問をしました。そうすると、これみんながっかりしちゃったんですけど、大学病院はみんな去るんです。それで、分娩を取り扱う病院の常勤、これは普通です、第一線で働こうということです。まあ普通なんですが、それと同じくらいの数の女性医師が、非常勤またはパートとなっていたいと。これはもう要するに自分たちの先輩の女性医師の仕事の仕方を見てるわけです。それで、こういうやり方が自分の一番賢い選択だろうと考えているんだろうと思います。これを変えないと、あのM字カーブ、女性の働き方であると思うんですけども、それどころじゃありません。こういう状況にありまして、ともかく180名ずつ減少していて、例えば病院の力がどんどん落ちている、これがさっき言った救急医療体制の問題にはね返ってきて現場に影響していることになるかと思います。 スライド54: 司会 小笠原 加奈子 こちらで「正常分娩」と言うお話がありましたが、「正常」と言うのは全部終わって初めて言えることです。もちろんリスクが高く厳重な管理をしなければいけない分娩もあるのですが、全くノーリスクであろうと思っていた人が、突然病気になって死んでしまうことがあるのが分娩の現場です。何度も言いますが、分娩と言うのは終わって初めて「正常であった」と言えるものであって、全くノーリスクであったはずの人なのに、振り返って見てみたら大出血していることがあります。実際、何らリスクがないはずであろう若い方の分娩で2000cc近くの出血があっという間に起こることもあります。それがお産の現場です。細かいことを言い始めるときりがないのでこの辺で終わりにしますけれども、私たち産婦人科医にとって大野病院の事件と言うのは衝撃どころではなく、もうほとんど爆発に近いようなインパクトがありました。実際私はその現場を見たわけではありませんし、もれ伝わってくる内容でしか判断できませんが、1つ言えることは、現在、現場で働いている産婦人科医師、とくに分娩を扱っている医師の間では、あれは逮捕されるべき症例だったのかということについて、みんな疑問というかおかしいと認識しております。あの事件では人が1人亡くなっています。赤ちゃんは助かっているのですけれど。そうすると、マスコミの方は、「人が1人亡くなっているのだから!」との前提で行動をしますし、国民を煽るのですが、実際にお産と言うのは亡くなることがあるのです。繰り返しますが、お産というのは、突然病気になって死ぬことがあるのです。それが現実ですので、病気になって亡くなった人を助けられなかった場合に、それを医師のせいだと言うのであれば、私たちはもう現場から去るしかないのです。過失がなければ死ななかったとすぐ言われるのですが、過失がなくても病気では人は亡くなるのです。でも、あちこちで「過失が無ければ亡くなることは無い」というような判例が出てきております。実際に大野病院の事件が有罪になってしまった場合、本当に半数以上の産科医が辞める可能性があると思います。先ほど、静岡県と長野県のデータがありました。私は静岡に勤めていたことが長いものですから非常に辛い数字だったのですけれども、実際に僻地の病院では当直5回とかというレベルではなくて、常勤医のみでほぼ24時間365日拘束でした。そういう状態で、働いていた経験があります。麻酔科医がいない中自分で麻酔をかけて帝王切開などの手術をしていました。そうせざるを得なかったので、やっていました。いないものはどうしようもなかったのです。が、あれがもし駄目だと言われるのであれば、もうすることはありません。善意でやったことに関して、後からけしからんと言われるのであれば続けることができませんので、もう撤収するしかないということになりますが、果たしてこう考える医師がおかしいのか、ということを是非皆さんに伺いたいですし、是非お考えいただきたいと思います。 確かに、これから入る産婦人科医を沢山増やすことも大事です。ですが、今現場で一番問題となっておりますのは30代40代の中堅医師がどんどん刃こぼれがするように辞めていることです。私たち医師は心だけでは患者さんを助けられません。冷たいようですが。「職人」なのですから専門的な技術を伝承する必要があります。つまり、修羅場の乗り切り方も、手術のいろいろなやり方も、どんどん若い人に伝えていかなければいけません。皆で一緒に苦しい思いをし、亡くなる患者さんもいた上で乗り越えていかなければいけないのですけれども、中堅の指導できる立場の医師がどんどん現場を辞めておりますので、そのようなことすらできない状況になっております。このままの勢いで中堅医師がどんどん辞めてしまったら、「さあ産婦人科やりますよ」、という医者が入ってきた場合誰が教えるのか?という状況になってきております。 今は既にぎりぎりの線を越えてしまって、もう医療崩壊は避けられないかもしれないと思っているのですが、まだ何とか間に合うとも思います。本当の最前線の現場で命を懸けて戦っている産婦人科医医師、特に分娩という非常に厳しい現実の中で戦っている医師、それに産科・婦人科に限らず救急の現場も脳外科も全部そうですけども、命に関わる現場でこうしている今も命を懸けて戦っている先生方をなんとかこれ以上辞めないように辞めないようにと、今すぐ対策を立てていただきたいと切に思います。 司会 | |